十年以上前、南インドのベンガル―ルに住んでいた頃の話。
ベンガルールは当時は英語の発音に近い「バンガロール」という呼称であったが植民地時代の名残を排する動きの中で現地のカンナダ語の元々の名前であるベンガル―ルと改められた。インド南部にあるカルナータカ州の州都で、2000年問題(Y2K)を契機としてIT産業の中心地となっている。インド半島の中央部に鎮座する台地であるデカン高原の南、カルナタカ州南西部にある絹の街マイソールで知られるマイソール高原の北に位置する。
ベンガル―ル都市圏の人口は一千万人を超える。カルナタカ州だけでなくインド各地からITエンジニアが集積しているため、北インドのインド・アーリア系民族から、南インドのドラヴィダ系民族まで、宗教的にもヒンズー教、イスラム教、キリスト教など多種多様な人々が集まっている。
沢木耕太郎氏の『深夜特急』、中谷美紀の『インド旅行記』、中村安希の『インパラの朝』といった小説でインドの深部を描き、日本画家の平山郁夫画伯も仏教発祥の地であるインドを題材に多くの作品にしている。1995年に公開された映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』は、南インドの東側に位置するタミル・ナドゥ州の言語タミル語で撮影されたロマンティック・コメディ映画であり、日本でもブームを巻き起こしている。
14億人の巨大な人口、気候的にも多様で広大な国土、多彩な文化、スパイスの効いた料理など、若者の冒険心を掻き立てる土地であるが、時にはイスラム原理主義や仏教原理主義によるテロ、ヒンズー至上主義の拡大によるマイノリティの排斥など、諍いが絶えない場所でもある。
ベンガル―ルまでは日本からシンガポールを経由すると約8時間のフライトである。広陵な農村地帯が眼科に展開する。ヒンズー教では牛を食べないこともあり、インド人の乗客が大半の場合、機内食にはマトン(羊肉)が必ず出る。インドではヒンズー教ではアルコールは禁忌のひとつとされているが、牛を神聖視するように固く守られてはおらず、ウイスキーの消費量は世界一の国となっている。ビールでは、ユナイテッド・ブリュワリーズ社によるキングフィッシャーという銘柄が有名である。世界的飲料グループのハイネケンが同社の大株主となっている。
キングフィッシャーは日本語ではカワセミと呼ばれる鳥であり、羽毛にある微細構造による光の加減で青く見える羽が美しい。シャボン玉と同じ原理であり、この美しい外見から「渓流の宝石」などと呼ばれる。インド半島の最も南にあるケララ州のバックフォーターツアーに行った際にはボートからこの鳥を見ることができた。
ちなみに同社は2013年に破綻したキングフィッシャー航空を保有していた。同社の飛行機を何度も利用したが、北インド系の色白美人がキャビンアテンダントを務めていた。再訪する際にはぜひ再度利用したいと考えていたため残念でならない。
ベンガル―ルは、欧米のIT企業が多く進出していることもあり、10階建て程度のビルが立ち並び、人や車が巻き上げる埃を除けば、さながら東京のような大都市にいるような錯覚に陥る。しかし、カンバンの文字を見ると現地の言葉であるカンナダ語の丸っこい文字が見かけられ、Googleの助けなしでは何の商店かもわからない。当時はiPhoneはまだ普及しておらず、スマホから直接カメラを向けることで自動的に翻訳してくれるような仕組みはなかった。
国際的なITプロジェクトに関わっているとインド人と仕事で働く機会は何度もあるが、ここ暫くの間、インドを再訪する機会には恵まれていない。日刊紙『Times of India』は当時も愛読していたが、最近ではiPhoneアプリで無料で読むことができるので折に触れて読むことでインドの最新情報をアップデートし続けている。いずれインドに関する各種レポートをまとめて将来のインドの発展の方向性について考察してみることとしたい。
あの日、暮れなずむベンガル―ルの街で街角のチャイワラ(チャイ売り)で飲んだチャイと同じ味のマサラティーをいま自宅で飲みながら、インドの悠久の歴史が鼻腔から伝わってくる。